株式会社イトーヨーカ堂に伺いました
株式会社イトーヨーカ堂
谷川佑介
2021.03.19
CoC100周年の年に始まった、新しい「日本初」
2020年、日本にまた一つ100年企業が誕生しました。1920年に創業し、流通小売業界をリードする企業の一つ、イトーヨーカ堂です。これまでも流通業界のリーディングカンパニーとして先進的な取り組みを行なってきたイトーヨーカ堂。実は創業100周年を迎えた2020年に、また一つ「日本初」の取り組みがスタートしました。それが、小売店として初めての持続可能な水産物の認証であるMEL認証の取得です。認証取得から1年となるタイミングで、主導的な立場でMEL認証取得に取り組んだ谷川佑介(たにがわゆうすけ)さんにお話を伺いました。
SDGsの一環で水産エコラベルの取り組みがスタート
イトーヨーカ堂は流通業界屈指の大企業です。何か新しいことをすれば新聞にも載りますし、あるいは他の企業がやっていることをやっていなければそれが話題になることもしばしばです。最近では店舗運営や商品開発だけでなく、持続可能な開発目標(SDGs)に対する取り組みでも注目を集めているといいます。 MEL認証の取得も、SDGsに対する会社の取り組みというのがスタートだったと話す谷川さん。SDGsの中にある「海の豊かさを守ろう」という目標に対して、持続可能性に配慮して漁獲・養殖された水産物を認証する水産エコラベルに取り組むことは自然な流れだったそうです。当初はMELではない別の認証の取得を目指していたのですが、その認証は私たちが国内で取引している生産者さんたちが取得するには、物理的なハードルが高いものでした。」そんな時にMELが国際機関から承認を受け、国際的に信頼のある認証になったことで一気にMELを取得する流れが加速したそうです。
「0」から取り組んだMEL認証
今までイトーヨーカ堂ではこうした認証に取り組んだ事例はなく、最初は右も左もわからない手探り状態だったといいます。小売店のMEL認証はCoCと呼ばれ、認証水産物とそうでない水産物が途中で混ざることなく管理されているかがメインの課題となります。MELに取り組む前から、商品は産地が混ざらないように管理されていましたが、MELに合わせて細かく手順書やフローチャートを作り、会社規模で統一した運用ができるように整備しました。イトーヨーカ堂は良くも悪くも非常に規模の大きな組織。何か新しいことを始めるにもたくさんの人を巻き込まなければ前に進まないことばかりだったと谷川さんは当時を振り返ります。「MELの取り組みでも、私たち本部の仕入れ担当だけでなく、実際にお店で働くスタッフや店舗を巡回するスーパーバイザーなど、本当にたくさんの人が関わって認証の取得に漕ぎ着けました。正直どこまできちんと運用ができるか不安だった部分もあったのですが、始まってみればどの店舗でも適切に運用がなされていてイトーヨーカ堂の底力のようなものを改めて感じました。」
今あるものをただ売るのではなく
イトーヨーカ堂のような大手小売店になると、その仕入れ先は大手水産会社を想像されるかもしれません。もちろん大手水産会社と取り組んでいる魚種もあるのですが、実は中小規模の生産者さんからの調達も多くあるそうです。日本の水産業は家族経営や小規模事業者が圧倒的に多いことが特徴です。取引のある生産者たちが、ヨーカ堂と目線を合わせ、品質に特化した特徴のある水産物の生産に取り組んでくれるのは、小規模事業者だからこその部分も大きいと教えてくれました。 「私たちが水産エコラベルに取り組むことになった時も、一緒に取り組みをしてきた生産者さんたちと一緒に認証を取り、彼らの育てた魚を認証水産物として私たちの手で販売する流れがすぐにできあがりました。」市場で認証水産物を買ってきてそれを並べるのではなく、生産者のみなさんと新しいチャレンジをする、とてもヨーカ堂らしい取り組みだったと谷川さんは振り返ります。
生産者とともに
もともとイトーヨーカ堂では「顔が見えるお魚。」というオリジナルブランドを作って水産物のブランディングに取り組んできました。全国のこだわりを持った生産者が育てた水産物に、その生産者のイラストが入ったシールを貼り、誰がどんな思いで育てた水産物なのかを見ることができる商品です。シールにはQRコードが記載され、そこから遷移したWEBページに生産者のインタビューやおすすめの食べ方などが紹介されています。最初の商品が2006年に販売され、以来10年以上に渡ってこの取り組みをおこなっているといいます。イトーヨーカ堂には、市場で売られているものをただ仕入れて販売するのではなく、お客様により喜んでいただけるよう、さらに付加価値をつけた商品を自分たちで作ってく風土があると谷川さんは話します。「顔が見えるお魚。の取り組みも、私たちバイヤーが毎年生産者さんの元を訪問し、生産者さんと一緒になって品質の向上に取り組んでいます。」水産物の生産方法はもちろん、加工方法や物流も含め生産者・流通業者・小売店と一体となって常にブラッシュアップを図っているそうです。
顔が見える関係が大きな財産
この取り組みのさらにユニークな点は、バイヤーが生産者のもとを定期的に訪問するだけでなく、生産者自身がイトーヨーカ堂の店舗を訪れ、自分が育てた水産物を自らの手で消費者に紹介していることだといいます。「顔が見えるお魚。に取り組んでいただいている生産者さんたちは、魚を育てて終わりではなく、その魚が流通工程でどのように扱われ、どのようにお客様に届いているかまで気にする人が多いです。時には店舗での扱い方について指摘を受けることもあったほど。それだけプライドを持って私たちの商品に関わってもらえるのは、10年以上に渡って一緒に取り組んできた関係性があるからだと思います。“顔が見える”とはお客様から生産者の顔が見えると同時に、生産者からもお客様の顔が見える取り組みでもあります。ある生産者からは、魚に餌をやる時にヨーカ堂のお客様や私たちバイヤーの顔が目に浮かび、その人たちのためにおいしい魚に育てなければと常に思っているとお話いただいたことがあります。」そこまでの思いを持って魚を育ててくれる生産者さんがいることは、イトーヨーカ堂にとっての大きな財産だと谷川さんは語ります。
生産者を守ることも、小売店の役割
生産者との信頼関係は、長い時間をかけいい時も悪い時も一緒に乗り越えて築かれるもの。歴代の担当者が生産者さんと向き合ってきたからこそ、生産者さんは今の担当である谷川さんとも向き合ってくれているそうです。「私たち小売店は、お客様に豊富で高品質な商品をお届けするだけでなく、購買を通して生産者さんたちを守る役割も持っているというのが私たちの考え方です。」どんな時も“生産者とともに”という姿勢は規模が大きくなって会社の歴史が長くなっても受け継がれているイトーヨーカ堂の伝統かもしれません。
サスティナブルな小売店を目指して
取材の最後に、SDGsのテーマになっている“サスティナブル”=持続可能性と言葉に絡めて、今後の小売店のあり方について話してくれました。 「多様な生産者を守ることは、私たちの多様な商品を守ることでもあります。私たちの売り場には、価格を抑えるために国外で大量に生産された商品もあれば、反対に国内の生産者が手間ひまを惜しまずに育てた『顔が見えるお魚。』のような商品もあります。どちらがいい・悪いという話ではなく、多様なお客様を相手に商売をしている私たちにとって、どちらも必要で大切な商品です。 イトーヨーカ堂の商品は全体的に価格が高いという声をいただくこともあります。ですが、それは生産者のみなさんが質の良い商品を作ろうと手間やお金をかけて努力されたことに対する対価です。努力したことに対して対価が支払われなければ、誰も努力をしなくなってしまいます。私たちは、安さや効率ばかりを追求した商品が並ぶ売り場が、本当にいい売り場だとは思いません。生産者さんたちが努力して作り出した価値をお客様にお伝えし、少し高くても買っていただく。そしてその分を努力してくれた生産者さんにお返しする。それが広い意味でのサスティナブルな小売店のあり方だと考えています。私たちの売り場にきて、その商品が届くまでの背景も想像しながらお買い上げいただけると幸いです。」
株式会社イトーヨーカ堂
谷川佑介
多様な生産者を守ることは、私たちの多様な商品を守ることでもあります。私たちの売り場には、価格を抑えるために国外で大量に生産された商品もあれば、反対に国内の生産者が手間ひまを惜しまずに育てた『顔が見えるお魚。』のような商品もあります。どちらがいい・悪いという話ではなく、多様なお客様を相手に商売をしている私たちにとって、どちらも必要で大切な商品です。
お問い合わせ
MEL認証については、
わたし達、
マリン・エコラベル・ジャパン協議会へ
お気軽にお問い合わせください。