徳島魚市場株式会社に伺いました
徳島魚市場株式会社
𠮷本創一
2021.03.09
養殖CoC徳島の水産物が一手に集まる徳島魚市場
競りが一通り終わった場内は、オレンジ色の照明の効果もあってか一仕事終えた安堵感が漂っているように感じます。寒さがひと段落した3月に徳島魚市場さんを訪ねました。対応してくださったのは徳島魚市場株式会社の𠮷本創一(よしもとそういち)社長でした。 徳島魚市場は徳島中央卸売市場で水産物の卸売りを行っている、通称「荷受」と呼ばれる業態の会社です。徳島県内の各浜から水揚げされた魚を一手に集め、競りを通して市場の仲卸に販売しています。
市場流通の仕組みを大切に、事業を拡大
荷受が魚を集め、仲卸が小売店に販売をするというのが日本の流通システムです。このシステムは、それぞれの役割が明確になっていて非常に効率のよいシステムになっています。最近では産直販売の取り組みがもてはやされる傾向がありますが、一方で市場流通の仕組みが占める役割は大きいです。徳島魚市場さんはこの市場流通の仕組みを生かした取り組みの強化に力を入れています。
水産の総合商社へ
「以前の荷受は集めた魚を仲卸に売って終わりでしたが、弊社の現在の業務範囲は、川上にも川下にももっと広がっています。」取材の冒頭で𠮷本社長は話します。安定的に生鮮食料品を提供する流通拠点となることや、競りを通して適正な価格を形成することが荷受の主な役割です。「私は市場の中にずっといるわけではなく、産地に行って生産者とも会いますし、養殖の稚魚の買い付けにも同行します。最近では東京の大田市場に仲卸の会社を作って、そこで加工・販売も行っています。」と、𠮷本社長。徳島魚市場さんは通常の市場業務に加え、県内外の養殖業者とタッグを組みオリジナルブランド「すだちぶり」の生産に取り組んだり、東京で自ら販路開拓にも取り組んでいる、いわば水産の総合商社です。
自らの手でブランド養殖魚「すだちぶり」を立ち上げ
特に力を入れているのがオリジナルブランド養殖魚の「すだちぶり」です。日本で一番潮流が早いと言われている鳴門海峡の西側に位置する北灘漁協の生産者が養殖している「すだちぶり」は、当時徳島魚市場で養殖魚の責任者だった𠮷本社長が自ら入り込んでブランド開発をした思い入れのある魚です。日本一の生産量を誇る徳島県産のすだちの果皮を配合した特製の餌を与えていることが特徴です。そのすだちを譲ってもらうために、𠮷本社長が自ら足を運び地元の農協とも交渉しました。県内の料亭でおこなったポスター写真の撮影現場にも立ち会うなど、𠮷本社長が責任者として細部まで携わっています。社長になった今でも、生産者が稚魚を導入するタイミングには必ず産地へ足を運ぶという徹底ぶりです。
首都圏への販売も強化
生産段階に踏み込むだけでは総合商社とは言えません。2020年7月には東京・大田市場内にグループの仲卸会社・江戸旭株式会社を設立。首都圏の量販店や飲食店を対象に営業を強化しています。敷地内に加工設備を整え、顧客の細かな要望にも対応するとともに、消費地に近い大田で加工することで鮮度の優れた水産物を提供できる体制を構築しています。
「三方よし」の商売を目指して
地方の卸売市場が川上から川下まで入り込み、ここまでブランディングや販売に取り組むことは非常に稀な事例です。積極的に事業を拡大している背景には、もともと大手量販店の鮮魚売り場で働いていた𠮷本社長の経験がありました。 市場にいると、直接取引のあるバイヤーや仲卸の声がどうしても多く耳に入ります。目利きのプロフェッショナルたちの目線は、シビアで頼れる存在であることは間違いありません。ですが、時には最終消費者がリアルタイムで求めているものとは異なる場合があります。徳島魚市場さんでは、できる限り最終消費者の声を直接聞き、それを今度は生産者側に伝えることで、消費者ニーズに合わせたブランディングをおこなっているのです。取り扱う水産物の価値を上げることができれば、徳島魚市場さんの市場としての取り扱い額が上がり、バイヤーや仲卸も付加価値のついた商品を購入できる、三方よしの商売に繋げることができます。
20年以上前から取り組む環境に優しい水産業
環境への配慮の取り組みも熱心です。徳島魚市場さんでは、持続可能性に配慮した水産物の認証制度である「MEL認証」を自分たち市場の中だけでなく、グループとして一緒に養殖をおこなう生産者も巻き込んで取得しました。今でこそ水産業界でも環境への配慮がさけばれる時代になりましたが、徳島魚市場さんは20年以上前から環境に優しい水産業に目を向け、産地の生産者と一緒に取り組みをしてきたというから驚きです。
たとえ認証マークがなくても
現状の水産認証制度では、その水産物を取り扱うすべての事業者が認証を取得しなければ、最終製品に認証マークを記載することができません。せっかく認証を取得しても、それが認証水産物として販売できない場合があることは、水産認証制度の大きな課題です。それでも、𠮷本社長は水産認証に取り組む意義を謳います。「私たち市場を運営する人間としては、環境に目を向けることはある意味自然なことです。環境汚染が進んで魚が取れなくなってしまったら私たち魚市場は魚を取り扱うことができなってしまいます。最終的には市場を運営できなくなってしまうかもしれません。たとえ店頭でマークをつけて売ることができなくても、水産認証に取り組んだことで生産現場の漁師さんたちの意識は大きく変わりました。私たちにとっては、この変化こそが大切なものでした。」
一匹の魚の裏側に
最後に𠮷本社長は水産認証制度について次のようにも話していました。 「漁師たちが取ってきた魚を上場して、仲卸に右から左へと流すだけのビジネスは終わりに近づいています。消費者が求めているものを生産者と一緒につくること、そして何より、いつまでも魚を食べることができる世の中を守ることが、これまで以上に求められています。水産認証制度は、生産者がどんな工夫や苦労をしながら魚を取ったり育てたりしているかを消費者が確認できるようにする制度でもあります。一匹の魚が食卓にあがるまでには、たくさんの人が関わり、関わった人の数だけ思いが込められています。私たち市場の人間は、水産物に込められた思いまで、お客様にお届けしたいと思っています。」そしてそれは、私たち認証制度を作っている側にも求められる姿勢だと、強く感じさせられた𠮷本社長との対談でした。
徳島魚市場株式会社
𠮷本創一
私は市場の中にずっといるわけではなく、産地に行って生産者とも会いますし、養殖の稚魚の買い付けにも同行します。最近では東京の大田市場に仲卸の会社を作って、そこで加工・販売も行っています。
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